2010年11月14日日曜日

蓼 1


わが屋戸の穂蓼古幹採み生し 実になるまでに君をし待たむ(11・2759)
わがやどのほたでふるからつみおほし みになるまでにきみをしまたむ

我が家の蓼の古い茎から穂を摘んで新芽を出させ、それがまた実になるまであなたを待っているでしょう

蓼(たで)、タデ科タデ属の一年草、ヤナギタデ、イヌタデ、ベニタデ、アオタデ、など種類は多くが全国いたるところに自生する

蓼は奈良時代には大豆や海藻に並ぶ大事な食品であったが貴族や上級役人あたりは薬味、生薬としての効能よりもどくとくの辛みからどこにでもある気にもとめない植物扱いをしていたようであるが、庶民にとっては一度に全草を摘まず脇芽をのばして日々食用とした大切な植物のひとつであった。蓼食う虫も好き好きという諺があるが蓼のもつ辛みと身体に良い成分に対し大変失礼な表現である。

(原文)小兒等 草者勿苅 八穂蓼乎 穂積乃阿曽我 腋草乎可礼
(読み)童ども 草はな刈りそ 八穂蓼を 穂積の朝臣が 腋草を刈れ(16・3842平群朝臣)
(意味)子供たちよ草を刈らないで穂積の朝臣の臭い脇毛を刈りなさい
これは彼の子孫としては大変恥ずかしい詩ではないでしょうか、仲の良い友人をからかったつもりでしょうが数百年というか万葉歌が語り伝えられる限り残る、ユーモアととれるか際どいところで、賢明な歌人は詠み人知らずとなるようにしている、東歌や詠み人知らずの恋詩のほうが蓼も喜ぶ

柳蓼の葉をすりつぶして酢でのばしたタデ酢は鮎の塩焼きに添えられる。タデの辛み成分はポリゴシアールと呼ばれるセスキテルペン・ジアルデヒドで昆虫の摂食阻害作用や抗菌作用がありタデオナールとも呼ばれている。ヨーロッパでは柳蓼の実を胡椒の代用としてつかわれるようで果実の辛みも捨てがたいものがあるようです。
タデ食う虫も好き好きというが辛みの強い蓼を食べる虫もあるということは有害なものを含んでいないということで適度に食べることは良いことではないでしょうか
柳蓼の成分は血液の凝固促進、血圧降下作用があり消炎、利尿、下痢止め、解熱、虫さされ、食あたり、暑気あたりに効果があるということで民間薬として重宝されてきた、暑気あたりには茎と葉をすりつぶし同量のオロシショウガを混ぜて服用すると夏バテ防止に良いそうでです、痛みのある腫れものには生の葉をもんで塗布すると痛みが治まるそうで応急的な痛み止めには効果がある。
ネパールでは葉を砕いて川に流し魚をとるそうである、また葉は黄色の染料ともなるらしい。